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妖艶な人(傀儡子さん)


クリスマスSS(再掲載)

妖艶な人

勇者シリーズ:傀儡子さん
妖艶な人

「傀儡子さん、これは何処においておけばいいですか?」
「それは、あっちの薬棚ですね、で…その右手のはそこにおいておいて下さい」

 傀儡子さんは、私の持っていた薬瓶の位置を的確に示すとまた前を向いてしまった。目の前には天使と見紛うほど美しい少女が鎖につながれて吊るされていた。彼女のことはよく知らないが、森に迷い込んできた少女だというのは知っている。傀儡子さんはいつも通りにそれを捕まえて人形にすべく魔法をかけているところだった。
 私はそれを手伝いながら、人間が人形に変わっていく様に複雑な感情を覚えていた。確かに彼の作る人形は美しい。元より、彼基準の美しい人間でなければお人形にはしないらしいのだが、人形にする前に彼が施す永遠の魔術により、彼の作る人形は本当に美の集大成と言わんばかりのできになる。
 人形となった彼らは、感情も表情も心も全て消え失せ、生き人形として傀儡子さんに遣える。だからこの屋敷には数十のあり得ないほどの美が常に歩いているのだ。

「う…」

 吊るされていた彼女が目を覚ました。そしてきょろきょろとあたりを見回すと、自分の状況に気が付き悲鳴を上げる。傀儡子さんは鬱陶しそうにため息を付いた後、再び魔術の詠唱に戻った。錯乱状態の少女が私に気が付き声をかけてくる。「助けて」と。
 私はそれを聞こえないふりをして、薬棚に瓶をもどした。少女は半狂乱になって鎖をがしがしと引っ張る。傀儡子さんは心底冷めた様子で一度魔術の詠唱を止めた。

「五月蝿いですね」
「…あんた一体何なの!?これはどういうことなの!?ねえ!」
「コレだから人間は嫌いなんですよ、黙ってなさい」
「あたしに一体何をするの?!ねえ、そこの女の人、助けて!!」

 傀儡子さんのため息が聞こえる。私は彼と少女を交互に見てから彼の隣に立った。私が仲間だとわかると彼女は再びきぃきぃと鳴き始めた。美しくても中身が駄目だなと傀儡子さんのつぶやきが聞こえる。私も同じ状況なら発狂すると思うのでなんとも言えずに彼の腕に自分の腕を絡めた。

「…折角美しいのだから、喚くのはお辞めなさい」
「じゃあこの鎖をときなさいよ!!」
「本当に五月蝿い女ですね」

 彼が私に目配せをする、私は彼女に近寄って鎖を解いた。彼女の半狂乱な喚き声が一瞬シーンと静まる。傀儡子さんはその隙を見計らって呪文の最後の一説を口にする。私は素早くそこから離れると彼女の体が光りだした。
 少しずつ、声が消えていき、体から力が抜けていき、目から生者の輝きが消えていき、彼女の体が地面に伏した。傀儡子さんはそれを抱き上げて隣の部屋に運んでいく。
 ああ、少し嫉妬してしまう。傀儡子さんは人形に対して愛情は持っていない。所有物であるとしか思っていないことは知っているが、万が一ということもあるだろう。だって彼女らは私の目から見てもありえないほどに美しいのだから。今だって服を脱がせ、傷がないかチェックをしているところだろう。私以外の女の裸を隣でじっくりチェックしていると思うと本当に不安になる。

「…はあ」

 こんなこと思っても仕方がないのに。どうせ彼女らは傀儡子さんが飽きたらどこかに美しきビスクドールとして売られていく。永遠の命を持つ美として。だから嫉妬などしてもどうしようも…と考えてふと気がつく。私はどうなのだろう。傀儡子さんは私を散々ひどい目に合わせたが人形にはしなかった。私を人間として側に置いてくれているが、私は飽きられたらどうなってしまうのだろう。
 特に彼ら彼女らのように美しくない私は、人形にされることもなく、捨てられるのだろうか。そう考えると顔が青くなっていく。体中から熱が消えていく感じがして、自分の肩を抱いた。

「今日の作業も終わりま…どうかしました?」
「え、あ…いや、なんでも」

 部屋のど真ん中で突っ立っている私を見て彼は不思議そうに首を傾げる。

「彼女は体も大変美しかったですよ。良い人形が作成できて幸せです。一時間ほどしたら自立しだすでしょう」
「…そう、ですか」

 あまりにも恍惚とした幸せそうな顔。私を見ているときよりやはり人形を見ているときのほうが幸せなのだろうと思うと悲しくなってくる。しかし、言うわけに行かない。彼はあまり感情を爆発させる人間というものを好まないのだから。感情的に動き、劣化していくそんな人間というものを嫌い感情のない永遠の人形を好む彼に感情をむき出しにしたら嫌われてしまうだろう。だから、わたしはぐっといろいろなものを押し殺して曖昧に笑った。

「…」
「私は、彼女に合いそうな服探して来ますね」
「いえ、待って下さい」
「なんですか?」
「隠し事してるでしょう?」
「…」

 鋭い瞳が私を射抜く。私は隠し事など無いと言ってくるりと踵を返した。ぎゅうっと後ろから抱きしめられて身が固まる。

「嘘吐きはいけませんね」
「…本当に隠し事なんて」
「……また、めちゃくちゃにお仕置きされたいのなら言わなくても構いませんが」

 ぞわっと寒気が走った。彼のお仕置きは非常に恐ろしい。最初に約束を破ったあの日、めちゃくちゃに人形に輪姦された。その次に彼にとって不快な行動を取った時は一晩中実験動物と交尾をさせられた。どちらも思い出すだけでゾッとする思い出だ。

「いいます、けど…怒らないですか?」
「内容によりますね。嘘の告白だったら犯します、不貞や浮気だったら殺します」
「…う、その…」

 私は先ほど感じていたことをぽつぽつと喋りだす。傀儡子さんは後ろで何も言わずに聞いていた。全て喋り終えた後彼はひとつ大きくため息をつく。先程の少女にしていたものと同じ、呆れ返った深い溜息。ああ、やはりごまかすべきだったかと頭を抱えそうになる。

「そんなことですか」
「…っそ、そんなことって」

 くるっと彼の方を向かされる。傀儡子さんの表情は本当に呆れている表情で、でも優しい顔をしていた。

「まず一点目、人形に欲情するなどありえないので安心して下さい」
「…はい」
「次に二点目、貴方に対して人形として期待していませんのでそちらも安心して下さい」
「……あ、はい」
「最後に、私は貴方に飽きる事はないでしょう」

 根拠はないがそんな気がしますと言い切る彼にほっと胸をなでおろす。彼は私をもう一度抱きしめる。薬と魔法の残滓の香りがする。傀儡子さんの匂いだ。

「変なことで悩まなくていいんですよ貴方は。何も考えず私のそばにいて下さい」
「…はい」

 耳元で熱い吐息とともにそうささやかれて、体が火照る。傀儡子さんはそんな私を知ってか知らずかそっと体を離した。まだ抱きしめられていたかったのにと言おうとした時、向こうの部屋からガタガタと音が聞こえた。

「おや、随分と早い目覚めですね」

 彼がのんびりとそういった後、一度眉をひそめて私の前に一歩出る。がんっと一度大きく音が鳴って扉が吹き飛んできた。扉の向こうにいたのは先程ほどの少女の人形だと思ったのだがどうにも形が違う。体中が黒く変色し、目は大きく見開き、口元からは涎が垂れている。

「ああ、やはり失敗していましたね」
「失敗…?」
「ええ、やはりもう一度気絶させるべきだった」

 彼女は鬼のような形相で、私と傀儡子さんを見ると、ケタケタと笑い声を上げながら凄まじいスピードで飛んでくる。彼はそれを見てため息を付いた後、魔術を発動させ彼女の進行を防いだ。彼女は張られた結界の前で目を見開いて私達を睨んでいる。
 たしかに彼女に罪はない、むしろ被害者だ。唐突に人形にされそうになり、そのうえ失敗され人間でも魔物でもない存在に落されたのだ。しかしこのままでは傀儡子さんが危ないかもしれない。
 私は、スカートの下から護身用のナイフを取り出し彼の後ろから飛び出る。彼女の首が百八十度回転をしてこちらを見る。

「ナンデ、アタシガコンナメニアッテイルノ?コイツモ、アンタモユルセナイ」

淡々とした恨み節を吐きながらもはや人間とは思えない関節の動かし方をして私の方に迫ってくる。少し前まで勇者だったのだ、これくらいの相手いくらでもしてきた。と自分に気合を入れて迫ってくる彼女にナイフを突き立てる。

「オソイワネ?」

 突き立てる前に、私のナイフは彼女の手によって弾かれた。ケタケタと笑う口元が大きく歪み、もう片方の手が長い爪をたてて私に迫る。このままじゃ殺される。そう思った瞬間、彼女の体に大きな風穴が空いた。
 致命傷を追った彼女は臓物を撒き散らしながらその場に崩れ落ちる。

「…そういう無茶はやめてくださいね」
 
 傀儡子さんが呑気に歩いてきて、彼女の頭を思い切り潰した。びくびくと体が数度震えて彼女は動かなくなる。

「たまに失敗はあるので私は慣れていますがびっくりしたでしょう?」
「…はい」
「起きている人間に魔術をかけると、ああいう事故が起きやすいのですよ」
「……そう、みたいですね」
「後処理は人形たちに任せましょう」

 傀儡子さんはベルを鳴らす。数体の人形が集まってきて自体を把握しモップとバケツを持ってせっせと掃除を始めた。

「貴方のお掃除は私がしましょうか」
「…私の掃除?」
「ええ、ほら自分の恰好を見てみなさい」

 目線を自分の体に移す。彼女に穴を開けた時に降り注いだ血液と肉の破片で凄まじいことになっていた。事実に気がつくと共に、鉄臭いにおいを感じる。当たり前だ、頭の先から爪先まで血まみれなのだから。

「さて、行きますよ」
「あ、自分で歩けます」
「いえ、怖い思いをさせてしまいましたから」

 ひょいと持ち上げられ、お姫様抱っこの形でそのまま人形たちに見守られる中運ばれる。

「メイリ、バスタオル用意しておいて下さい」
「…」
「リッカーは、あれを外のゴミ捨て場で焼却」
「…」
「ヘイドは私達の通ったあとの血の掃除を」

 命令を下された人形たちが恭しく頭を下げる。傀儡子さんはすべての命令を出し終えて部屋を後にした。ヘイドと呼ばれる人形がモップを持ってせっせと掃除をしながら私達の後ろを掃除しながらついてくる。
 長い銀色の髪の毛がモップを動かす度にさらさらと揺れる。青い瞳が時折私達の様子をうかがうように見ていて、目が合う度に彼の魅力に引き込まれそうになる。傀儡子さんの作る人形は美しいだけではなく妖しい魅力と魔力が込められており、思わずどきりとしてしまうのだ。

「…貴方が見るのはヘイドじゃなくて私でしょう?」
「えっ」
「ずっとヘイドばかり見ている」
「…だって」
「だってじゃありませんよ、貴方が見てていいのは私だけなんですから」

 血まみれの顔にキスをされ別の意味で頬が赤く染まる。

「人間とも人形とも浮気は許しませんよ」
「…しませんよ」
「それを聞いて安心しました、ああ…私も勿論人形とも人間とも浮気をしないと誓いましょう」
「…ん」
「さ、着きました。いっぱい綺麗にしてあげますね?」

 ぞくっとするほど妖艶な声に顔を上げる。
 傀儡子さんの瞳は先程の人形の何倍も妖艶な濃い色をしていて、体がうずく。私は、魅せられてしまい何も言えずにそれこそお人形のように固まってしまうのだった。

END

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