空木SS

2017-05-10 (Wed) 23:19
彼女が失踪した理由 0
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女が失踪した理由シリーズの
バッドエンドルート回避後のSS
視点はばらばら
第二弾は空木さんです。

霧島さんはまだ書いてる最中なので少々お待ちを…
いちごの国

「はい、また僕の勝ち~」
「それはよかったですね」

 彼女は顔色ひとつ変えずに資料に目を通す。せっかく僕が遊びに来てあげてるって言うのになんていう態度なんだろう。信じられない。ぶすっとほっぺたを膨らませても彼女は見向きもしてくれない。

「仕事の邪魔なんですけど」
「僕は仕事中じゃないもん」
「知らないです」

 しっしとまるで汚い猫を追い払うような仕草、僕は汚い猫じゃなくて君のご主人様なのに。僕はすごく優しいと思う。結局誘拐もしなかったし事務所の人たちだって殺さなかった。それだけでも褒め称えるべきなのに更にはこうやって探偵助手までやってあげてるのに。

「空木さんって緑茶でよかったですか?」

探偵事務所の事務員の子が僕の目の前に冷たい緑茶とお茶請けを置いてくれた。
緑茶より紅茶派なんだけど、とは思ったもののここで我儘を言ったら後で彼女に怒られるしと有難く好意を受け入れることにした。ひとくち緑茶を啜る。
ちょうどいい濃さ、氷のことも考えてある。この事務員ちゃんはきっと有能。うちの黒服も見習ってほしい。紅茶といえば、渋い紅茶を煎れてくるし、茶器を温めることすら知らないし、馬鹿ばっかり。

「佐倉さん、それに構わなくてもいいんですよ」
「それって…」
「せっかくのお客さんなんだからちゃんと饗さなきゃ駄目ですよ」
「客っていうのはお金を落とす人のことで、人の事務所でぐーたらニートしてる人のことじゃないです」

ぐさりと冷ややかな目線が刺さる。
 確かにお医者さんごっこはもうやめちゃったけど…まあ、裏の仕事してるなんて世間様には言えない、となると僕はニートになるのか、なるほど。
 佐倉さんと呼ばれた事務員さんは、苦笑を浮かべて僕と彼女を見ると奥の方にささーっと引っ込んでいった。あれはニートの僕に向けての苦笑なのか、あまりにも冷たすぎる彼女に向けての視線なのか、はたまたどちらもなのか…

「空木さん、ここは空木さんのお家じゃないんですから帰っていただけませんか」
「はは、いいじゃないか」
「所長!なんで甘やかすんですか」

 所長さんが僕と彼女のやり取りを見て口を挟んでくる。所長はチラチラと僕の顔を見てお伺いを立てるようにしている。当たり前だよね、だって所長にはいっぱいお金握らせてあげてるもんね。彼女は知らないけれど。
 こんな弱小事務所に最近沢山の依頼が流れてくるのは誰のおかげか、その手元の資料は誰が運んできたものなのか彼女は知らない。知っているのはあの所長さんだけ。だってそういう取引だもん。
 この事務所は結構黒い。というか、もう僕の傘下といっても過言ではない。僕らは表じゃ自分の思うようには動けない。だから、駒を作る。僕はキング、所長は兵士。駒にはたくさんの利益を献上してあげる。所詮使い捨ての駒だけど、士気は高いほうがいいからね。
 だから所長は僕には何も言えない。内心、彼女の態度にひやひやしているだろう。僕の機嫌を損ねたら文字通り首が飛ぶから。
 このお茶請けのシュークリームだって、見た目こそそこまで他のお菓子と大差ないが超有名ハイブランド店の人気の品。絶賛予約待ち中。わざわざ手に入れてきたのだろう。

「ねえ」
「なんですか」
「今から一緒にお散歩しない?」
「はあ…?」

 本気の嫌悪とはこのことだろう。彼女は思いっきり眉を潜めて僕を睨む。そういうところもすごく好き。大好き。はやく僕のものになってくれればいいのに。

「まあ息抜きも大事だよな、行ってこいよ」
「所長本気ですか?」
「本気本気、後は俺らでやっておくからさ」

ばさっと彼女の腕から資料が取り上げられる。彼女は不服そうだったが腕を絡め取ってすりすりと頭を寄せると非常にめんどくさそうに席を立った。所長からしてみれば大喜びだろう。女一人犠牲に捧げるだけで僕がどっかに行ってくれるのだから。所詮、人間そんなもの。
 荷物を持とうとしている彼女を引きずって事務所の外に出た。

「空木さん何処行くんですか」
「お洋服買いに行こう」
「仕事中なんですけど」
「今日の仕事は終わり」
「はあ?いや、そんなことは」
「大丈夫、所長もわかってくれてるよ、今からはデートタイム」
「…貴方何者なんですか?」

 僕は精一杯可愛くウィンクをして中指を唇のところでぴんと立てて「秘密」と笑った。彼女は本気で嫌そうにそっぽを向いた。連れないところが好き。
 そんな不機嫌な彼女を思い切り引っ張って、顔なじみの店に連れ込む。僕の大好きなお店。お人形…いやお姫様みたいなお洋服を売っているお店。ここでなら誰でもお姫様になれる、だから僕も王子様になれる。

「こういうの好きじゃないんですけど」

 服屋に入るなり彼女の声のトーンが一段回落ちる。本気で嫌いだと言わんばかりに。それもそうだろう。彼女はスーツやビジネスカジュアルのような服装を好むのをよく知っている。でもね、女の子は皆お姫様なんだから君だってこういうドレスが似合うに決まってるんだ。
 君にはスーツよりもこういう服を来てほしい。で、僕だけのお姫様になって欲しい。でもね、まだそれは秘密にしておく。

「でも、ほら見て?これなんてすごくかわいいよ」
「あのですねえ…」

 白雪姫みたいなドレス。きっと君がこれを来たら本物の白雪姫になってしまうんだろう。今度こそ僕は王子様になりたい。だから君にはお姫様になって欲しいんだ。ドレスを着て、優雅に僕を魅了するお姫様に。
 彼女の前にドレスをあてがう。本当に似合う。表情が無表情なのがお人形さんみたいだ。お姫様のお人形。僕が求める理想像。だって、僕はお人形の王子様にしかなれないってわかっているから。本当のお姫様は嘘っこの王子様なんて相手にしてくれないの。

「空木さん?」
「え、なに」
「いや、そろそろ離れてくれませんか」

そういえば後ろから抱きしめるみたいに服を当てていたのを思い出す。でも、もう少しこのままでいたいなと思ってしまう。だって、鏡に映る2人が物語の中の挿絵みたいだって思ったから。
 でもあんまりくっついているとまた怒らせちゃうから。僕は服を棚に戻すと彼女の横に並んだ。

「空木さんってメルヘンですよね」

 さほど興味もなさそうに、棚に飾られたドレスを眺めながら彼女はぽつりと漏らす。大の大人とは思えませんと、たっぷりの嫌味付きで。

「ほぼすべての野菜も肉も魚嫌いの偏食で、お菓子しか食べないし服装趣味はメルヘンだし、
そのうち僕はいちごの国の王子様とか言い出しそうですね」
「いちごの国かあ」

 その発想力、結構好きだよ。いちごの国の王子様、いい響きだと思う。

「いいね、いちごの国の王子様」
「本気ですか?嫌味ですよ」
「うん、知ってる」

 いちごの国でも、殺戮の国でも、どこか辺境のど田舎の国でも、王子様になれるなら僕は何処だって構わないな。それもお姫様が君ならば。こんな臭いセリフを言ったらきっと彼女は今日一番のドン引きの顔で僕から二歩程離れるんだろう。

「ねえ、いつまでここにいるんですか空木さん?」
「いつまで、そうだなあ…」
「買い物しない冷やかしは帰らないといけませんよ」
「ん、じゃあ先出てて」
「はいはい」

彼女はまだ付き合うのかといったゲンナリした顔で外に出ていく。
それを見送って、顔なじみの店員のいるカウンターに足を運んだ。

「アレがせんせーのお姫様?」
「そうそう、可愛いでしょ」
「すごい嫌がってたよ」
「うん、そこが好き」
「せんせーってやっぱ変だよね~」

 けらけら笑う店員に、あの白雪姫ドレスをカードで送る場所はいつもの場所と指定して直ぐに彼女の後を追った。

「お待たせ」
「別に待ってません」
「でも、居てくれたでしょ」
「おいて行ったら後でイタ電とかしょーもないことしてくれるでしょう」
「バレてた?」

 はい、と冷たく言い放つ彼女の腕にまた自分の腕を絡める。彼女はもう抵抗しなかった。まな板の上の鯉とでも言わんばかりにぐるぐる絡む僕の腕を受け入れている。
 ほんとはね、少しだけ僕のこと好きなんでしょ。知ってるよ。
 だって君にひっつく度に君の指先はかすかに震えるし、頬もほんの少しだけピンク色に染まる。言葉だって冷たいけれど、ちゃんと僕のこと待ってるし、さっきだって、ずっとお店の窓見てたでしょ。
 君からはたくさんのドレスでかくれちゃってみえないかもしれないけど、僕の方からは丸見えなんだよ。
 でも、君も僕と一緒。そういうことは秘密にしてる。

「ねえ、君はお姫様になりたくないの?」
「はあ?一体何言ってるんですか」
「だって、普通ああいうドレス見たら女の子はわくわくするものじゃないの?」
「ごく一部では?」
「そーなの?」
「そーです」
「僕が王子様になったら君はお姫様になってくれる?」

ぴたりと彼女の歩が止まった。

「告白ですか?」
「そーかも」
「…冗談じゃないです、私はそういうお花畑に生きてないので」
「手厳しい」

 ばっと絡めていた腕を無理矢理解かれて、彼女はかつかつかつかつとわざとらしくヒールの音を慣らしてどんどん先に進んでいってしまう。
 ふふ、本当に君って可愛いね。すごい動揺しちゃって、バレてないと思ってるの?

「待ってよ」

 後ろから腕をつかむ。

「本気だっていったらどうするの」
「…なんですか?」
「本気で好きだよ」
「っは…?」

 不機嫌そうにこちらを向いた彼女のおでこに優しくキス。通行人が驚いた顔をしてこちらを見ているのがわかる。わかるよ、だって、まるでドラマみたいだもんね。
 きょとんと呆け顔の彼女にもう一度顔を近づける。

「君のことが好き、でもまだ」
「…で、もまだ?」
「もう少しこのままで」

腕を離す。よろけた彼女をしっかり立たせて肩をぽんぽんっとたたいた。彼女は我に帰ったようで顔を真赤にしてその場に佇んでいる。

「じゃ、また明日ね」

 ばいばーいと彼女に手を降って、事務所とは反対方向に向かう。途中彼女の罵声が聞こえたけれど無視をした。

君のことは大好き、でもね、まだ君が素直にならないからお預け。
本当は君だってとっても女の子なんだから、その気持に気がついたらその時は
僕だけのお人形にしてあげる、だから僕だけのお姫様になって。
 
そしたら今度こそ僕は世界で唯一人の王子様になれるから。
 
なんてね。


Comment form
Name
URL
Title
Comment
Pass (Edit)
管理者にのみ公開
Trackback URL
http://parasitegarden000.blog.fc2.com/tb.php/52-e902ba99